なぜCopilotは「議事録要約」止まりになるのか? 本当に価値あるデータが眠る場所

Microsoft 365 Copilot(以下Copilot)を導入したものの、「思ったような成果が出ない」と感じている情報システム部門・DX推進担当者の方は少なくありません。多くの企業でCopilotの利用実態を調査すると、その用途のほとんどが次の3つに限定されていることが分かります。
- 会議の議事録要約
- メールの下書き作成
- 一般論的な質問への回答
これらは一定の生産性向上には寄与しますが、本来期待していた「経営判断の迅速化」や「高度な業務効率化」には届いていません。この記事では、Copilot活用が「周辺業務」で止まってしまう本当の原因と、多くの企業が直面する6つの「あるある」、そして本当に価値のあるデータがどこに眠っているのかを整理します。
目次
- 多くの企業がCopilot活用で感じている物足りなさ
- Copilotが活用できないと感じる6つの「あるある」
- 会社の重要なデータは、実はどこにあるのか
- Copilotが標準で参照できる範囲と、そのままでは使えないデータ
- 「接続」だけでなく「データ整備」が必要な理由
- 本当に価値のあるデータは、オンプレミスに眠っている
- まとめ:データの置き場所を変えるだけで、Copilotは変わる
多くの企業がCopilot活用で感じている物足りなさ
Copilotを導入した企業の多くが、議事録の要約・メールの下書き・調べもの止まりになっている状態に心当たりがあるはずです。会議のまとめには使っている、文面作成には使っている、調べものには使っている ── しかしそれ以上の広がりがない。
これは、Copilotを導入したものの「周辺業務」止まりになっている典型的な状態です。原因はCopilotの性能ではありません。「本当に価値のあるデータ」がまだ渡されていないだけなのです。
そもそもCopilotはどうやって回答を作っているのか
「なぜデータの置き場所がそんなに重要なのか」を理解するには、Copilotの仕組みを少しだけ知っておくと腑に落ちます。Microsoft自身の説明によれば、Microsoft 365 Copilotは大きく3つの要素を組み合わせて動く「処理・オーケストレーションエンジン」です。
- 大規模言語モデル(LLM)そのものの言語能力
- Microsoft Graphを通じて取得する、ユーザーがアクセス権を持つメール・チャット・ドキュメントなどのコンテンツ
- 普段使っているWordやExcel、PowerPointといったMicrosoft 365アプリ
つまりCopilotは、質問に対してLLMが単独で「それらしい文章」を生成しているのではなく、Microsoft Graph経由で取得できる実際の社内コンテンツを根拠(グラウンディング)にして回答を組み立てています。根拠にできるデータがMicrosoft Graphの範囲内に存在しなければ、LLMは自分の一般知識だけで答えるしかなく、結果として「一般論」や「当たり障りのない回答」になってしまうわけです。6つの「あるある」の多くは、実はこの「グラウンディングできるデータがあるかどうか」に集約されます。
Copilotが活用できないと感じる6つの「あるある」
データをAIに活用しようとする際、現場やIT部門は次のような6つの課題に直面します。
1. 欲しい答えが返ってこない
社内の売上や数字を聞いても、一般論でしか返答できない。「参照できるデータがない」状態です。
2. データがMicrosoft 365の「外」にある
商談データ(Salesforce等)や注文データ(基幹システム等)がCopilotの参照範囲外にあります。
3. 専門部門へ依頼すると数ヶ月待ちになる
データ連携を社内の専門部隊に依頼しても、リソース不足により順番待ちが発生し、データ連携を変えたいだけなのに大規模な開発案件になってしまいます。
4. 部門ごとに数字がバラバラ
営業、経理、現場など、部門ごとにマスターが異なり、「最新版どれですか?」が毎週飛び交います。
5. AIに渡す前の「手動集計」が発生している
CSVやExcelをダウンロード・加工してからAIに食わせるという手作業が生じ、AI活用のはずが手作業が増えています。
6. 数字の確認作業だけで1日が終わる
確認作業に追われ、最も重要な「意思決定」の時間が奪われています。
会社の重要なデータは、実はどこにあるのか
多くの企業では、商談・受発注・生産実績といった経営判断に直結するデータが、クラウドとオンプレの両方に分散しています。
クラウド(SaaS)にあるデータの例としては、Salesforce・kintoneなどの商談・業務データ、経費精算・ワークフロー系SaaSの申請・稟議データが挙げられます。
オンプレミス(社内システム)にあるデータの例としては、基幹システム・ERP(AS/400等)、生産管理システム・ファイルサーバーが挙げられます。
SaaS側のデータはまだ連携がイメージしやすい一方、オンプレ側のデータは「難しそう」という印象から後回しにされがちです。
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Copilotが標準で参照できる範囲と、そのままでは使えないデータ
Copilotは基本的にMicrosoft 365(Word、Excel、Teams、SharePointなど)の領域内だけを標準で参照します。基幹システム等のオンプレミス環境は接続自体が難しく、標準の設定だけでは範囲外になってしまいます。
さらに「接続できる」と「AIが業務で使える」は別の話です。単にネットワーク的に繋がるだけでは、Copilotが正確に回答できる状態にはなりません。
Copilotコネクタという選択肢と、その限界
公平のために付け加えると、Microsoft自身もMicrosoft 365の外にあるデータをCopilotに参照させる仕組みを用意しています。「Copilotコネクタ」と呼ばれる機能で、大きく2種類に分かれます。
同期コネクタ(synced connector)
外部データをMicrosoft Graphにインデックス化して取り込む方式。SalesforceやSAP、SQL Server、Oracle、ServiceNow、Dynamics 365など、100種類以上の構築済みコネクタが用意されています。
フェデレーションコネクタ(federated connector)
データをインデックス化せず、Model Context Protocol(MCP)を使って必要なときにリアルタイムで取得する方式。機密性が高い・更新頻度が高いデータ向けです。
「それなら標準機能だけで十分では?」と思うかもしれません。実際、SalesforceやSAPのようなメジャーなSaaS・ERPであれば、構築済みコネクタで連携できるケースは多くあります。
しかし、多くの日本企業が抱える本命データは、AS/400のような古いホストシステムや、自社独自にカスタマイズされた生産管理システムです。こうした環境には構築済みコネクタが存在せず、開発者がスキーマを定義してMicrosoft Entra IDに接続を登録し、データを取得・送信するコードを書く「カスタムコネクタ」の開発が必要になります。しかも、コネクタで接続できたとしても、この記事の後半で触れる「名寄せ」「表記揺れの統一」「権限設計」といったデータ整備は別途必要です。つまり、接続方式の選択肢が増えても、「整備」という工程そのものは避けて通れないのです。
- Microsoft 365(Word/Excel/Teams)
- Outlook(メール・予定)
- Teams(チャット・会議)
- SharePoint / OneDrive
- 基幹システム・ERP(AS/400等)
- 独自の生産管理システムのDB
- オンプレの閉域網・社内システム
- 標準コネクタがなく個別対応が必要
「接続」だけでなく「データ整備」が必要な理由
ERPやSalesforce、CSV/Excel、SQL Server、オンプレDBなど、データソースは多岐にわたります。これらを連携基盤で統合・名寄せ・整形・品質管理してはじめて、Copilotが業務データで正しく回答できるようになります。
つなぐだけでは足りません。AIが使える状態にするには、次のような「整備」が必要です。
- データが分散している
- データ形式がバラバラ
- 名寄せが必要
- 更新タイミングが異なる
- 権限・品質管理が必要
分散したデータをAIが活用しやすい形に統合・整備することが、AI活用の鍵です。特にオンプレミス環境や基幹システムを含む企業ほど、データ連携・整備の重要性が高まります。
本当に価値のあるデータは、オンプレミスに眠っている
生産実績・在庫・受発注など、経営判断の核になるデータは、今も基幹システムの中にあります。しかし「オンプレは特殊対応が必要で難しい」という思い込みから、そもそも検討の土俵にすら上がっていないケースが大半です。
結果として、Copilotは議事録要約・メール下書き止まりの周辺業務にしか使われず、業務の数字にAIが届いていません。オンプレを諦めている「今」が、実は差がつくチャンスです。
まとめ:データの置き場所を変えるだけで、Copilotは変わる
Copilotが「使えない」と感じる原因は、性能でも導入方法の誤りでもなく、単純に「本当に価値のあるデータがまだ届いていない」ことにあります。そして、その本命データの多くはオンプレミスの基幹システムに眠っています。
「オンプレは難しい」という思い込みさえ外せれば、対処法はシンプルです。次の記事では、「大規模なデータ基盤(DWH)は本当に必要なのか」「オンプレのデータは本当に連携できないのか」という2つの誤解を解きながら、Copilotにデータを届ける現実的な4つのステップを解説します。








